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いつだってそう思っている

Updated: 5/12/2022 Original: 6/12/2005

Hawaii

もう卒業も間近という頃にはじめて読んだ記憶があります。中島敦「山月記」です。

それから以降、この一文を平静に読めたことは一度だってありません。この記録が世界のどこかに存在し、誰かの記憶に残っているかぎりその事実さえも僕を苦しめ続ける、そういう一文です。

己の珠に非ざることを惧れるが故に、敢て刻苦して磨こうともせず、又、己の珠なるべきを半ば信ずるが故に、碌々として瓦に伍することも出来なかった。(中略)人生は何事をも為さぬには余りに長いが、何事かを為すには余りに短いなどと口先ばかりの警句を弄しながら、事実は、才能の不足を暴露するかも知れないとの卑怯な危惧と、刻苦を厭う怠惰とが己の凡てだったのだ。己よりも遥かに乏しい才能でありながら、それを専一に磨いたがために、堂々たる詩家となった者が幾らでもいるのだ。

山月記